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理想が無い改革はただの暴力

bylines.news.yahoo.co.jp

この記事に対し

配偶者控除の廃止を「専業主婦否定」に結び付けてはいけない(大塚玲子) - 個人 - Yahoo!ニュース

良記事。/配偶者控除廃止を短絡的に「専業主婦を前提にした社会の終焉」として歓迎する向きが多いが単に「配偶者控除内で働いていた収入の低い人からも税金を取る」だけの話。意識改革が伴わないならただの増税

2016/09/28 11:23

ブコメしたのだが、補足。

件の記事の主張は「配偶者控除の切り捨てを専業主婦否定につなげてはいけない」ということで、この動きを「専業主婦vs共働き」の文脈で語るべきではないということだと思う。
氏は普段「専業主婦ありきの機構が様々な弊害を生んでいる」と主張している方だが、それは「専業主婦vs共働き」ではなく「専業主婦&共働き&片親&etcが共存する現状を反映させるべき」という話であり、件の記事の主張もその流れから出ている。

私も「専業主婦&共働き&片親&etcが共存する現状を反映させるべき」と考える。
ただ、今回の「配偶者控除の廃止」を「専業主婦を前提にした世界への改革」と語ることには違和感を感じる。

配偶者控除の廃止は増税

今回の廃止は「今まで配偶者控除によって税金を免除されてきた人々からも税金を取る」という話だ。
確かに「配偶者を持ってる人間にメリットがある仕組みの破壊」→「税制上は配偶者の有る無しで区別されない」ではある。

でも、配偶者控除内で働くことってそんなに「社会悪」なんだろうか?

ある夫婦がいる。貧困に苦しんでおり一人の稼ぎではどうにもならないから二人とも働く。
目の前に「配偶者控除」という取られる税金を減らせる施策がある。
配偶者控除を利用し、労働量を制限された方の配偶者が家事を多め分担する。
そうして少しでも夫婦の労働対利益・労働力のパフォーマンスを高めようとする。
これはごく当然の心理じゃなかろうか。

根っこの部分「貧困に苦しんでいて」が無ければどうだろう。それでも彼らは配偶者控除をぎりぎりまで使うだろう。
では「配偶者控除を廃止」してこの夫婦の労働力のパフォーマンスは高まるのだろうか。
この夫婦においては、配偶者の労働時間を増やさなければ、取られる税金が増える分パフォーマンスはむしろ悪くなる。当然家事の分担の見直しは必要になる。家事の総量が変わらないなら、互いの外での労働時間の調整が必要になるだろう。

社会の総体としては労働力のパフォーマンスが上がる可能性はある。だって、今までよりも労働力が増える可能性が高いし、配偶者控除内で働いていた人からも税収が得られるのだから。
だがこの夫婦にとっては?

「社会の総体の労働力のパフォーマンスが上がり税収が上がれば、国民への分配も出来るようになる。」と主張する人もいるだろう。
では今回の改革でそうした動き、つまり収入が低い人たちをフォローするようななにかがあったのだろうか?
無いのであれば、今回のこれは夫婦にとってはただの増税でしかない。

「その分働けば良いじゃないか」という人も多いだろう。
働ける人はいい。
でも実際には貧困状態にある人の多くは余分に働く余地など無い場合も多い。
仕事にしたってそうだ。
働かなければならない人が増えれば当然買い手市場になる。時給が低くても働き手がつく様になれば、働く側の労働力のパフォーマンスはどんどん悪化するだろう。ここでも得をするのは社会の側。

例えば片親の家庭ではどうだろう。特に何も変わらない。
十分な収入が有って専業主婦を出来ていた家庭ではどうだろう。税金は増えるだろうが大筋は変わらない。
大きなデメリットを受けるのは配偶者控除のメリットによって生活を維持できていた家庭だ。
今回の改革は、この改革だけ取ってみるなら「収入が低いが配偶者控除で税金を押さえて何とか家計を維持できていた家庭」をターゲットにその破壊を目指す施策の様に、私には感じられる。

(まあ、私がまさにそういう状況にあるから、過敏に感じているのだと思うが。)
(社会全体としてみた場合はメリットがあるとは思うのだ。だけど、それを重視できるほどの余裕は私には無いのだ。)

理想が無い改革はただの暴力

というように私は今回の配偶者控除の廃止を否定的に見ている。
やるなら低収入者層(片親、共働き、独身者、経済的に配偶者控除内で働くことを余儀なくされていた層も含め)へのフォローをセットにすべきだったと思う。

これは「専業主婦を前提にした世界への改革」の第一歩であるのは確かだろう。
これによって専業主婦であることがメリットで無くなれば、配偶者控除のメリットを受けていた人々は働き方を変える必要が出てくる。
当然、企業主などの方でもパートタイマーへの対応を変えていくことになるだろう。
でも、今現在頑としてある時給の差、社会的風潮は一朝一夕では変わらない。
変わらなくても企業や税務署は何も困らない。
むしろ企業にとっては、今まで同様の低めの賃金でも時間関係なく働いてくれる人材が増えるなら、むしろありがたいと考えるだろう。

結局のところ、国は専業主婦を前提にした機構を破壊した先でどんな世界を作るのだろう。それが見えない。

「専業主婦であれ、共働きであれ、片親であれ、親無しであれ、独身者であれ、みんなが共に幸せに暮らせる世界」こそが最終的な目的地だろうと思うのだが、そういう方向への意識改革はどうも進んでいないように思える。
それが進んでいるなら、進めていこうとするなら、上記したような貧困層へのフォローアップをセットにする位はしたはずだ。

意識改革が無ければ、今回の施策はただの増税だ。それも貧乏な共働き世帯ほど苦しむ増税だ。
そして件の記事の語る様に配偶者控除を活用していた人間へのバッシングが起こる可能もあるが、その時攻撃されるのも実は、記事主が語るような「経済的に専業主婦でやれている家庭」ではなく「経済的に専業主婦ではやれてなかったが配偶者控除+共働きでなんとかやれていた家庭」だろうと思う。
攻撃はつねに弱いものに集中するから。
それを防ぐにはそれこそ社会全体の意識改革が必要だけど、それを期待するのは難しいだろう。

実際の改革を伴わない理想はお題目同様価値のないたわごとだが、理想の無い改革はただの暴力だ。
そして暴力はより弱いものに向かって振るわれる。ほとんどの場合。
それを称賛し得るのは「自分はぶたれることは無い」と思っている人だけだと思う。