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差別は彼らのエネルギー


本当にイスラム国をISILと呼ぶ必要があるのか!? 呼称問題を考える|LITERA/リテラ 本と雑誌の知を再発見

「呼称を変えることより、それによって発生している差別を解決することの方が重要ではないか?」

という論旨自体は同意するが、

「だったら変えても同じだろ、イスラム教徒の人達が変えて欲しいと言っているんだから。」

という論旨も納得行く話で、結局ただの政権批判にしかなっていないのは残念。

略称の力

私自身は、小学校の頃テレビから流れる「ナトー*1」とか「オペック*2」とか「タック*3」とかといった略称を聞くと「なんかかっこいい」と感じた人間だ。

そんな人間からすると「イスラム国」より「ISIS」とか「ISIL]とかの方がかっこいいと感じてしまうのだが、それはまあ私がおかしいのだろう。
以前も書いたが日本で広めるならアラブ圏で使われている「ダーイッシュ*4」の方が悪の組織っぽい響きで良いと思う。


さて、正式名称と略称は同一のものか?と言えば、私は別なものだと思う。
音の響きや見た目の文字の並びも名前の一部だと思うからだ。
上で書いた「“ダーイッシュ”一択」の意見もそれが前提となっている。

「でも、略称に変えても表現される意味合いは一緒じゃないのか?」

これは微妙に違うと思う。

略称は頭の中で正式名称に変換されて本来の意味合いを持つ。
変換されなければ略称自体の音と文字のイメージしか持たないのだ。

上で、小学校の時聞いた「ナトー」や「オペック」が「ナット-」と「オッペン」に変わっても、当時の私には文字と音の違いしか感じられなかっただろう。
NATOをNATTO*5と呼ぶことは当事者にとっては大いに侮辱的な行為だと思うが、それは正式名称を頭の中で変換できて初めて分かることだ。
だから、イスラム国をISISとかISILとかダーイッシュと言い換えること自体は、少なくとも日本の文化圏で「国」というニュアンスを無くすためには十分効果があると思う。

名前で差別はなくならない

が、それとイスラム教イスラム教徒への差別がなくなるかどうかは別な話だ。
イスラム教の教え、特にジハード関連の教に対する偏見は根強い。
そして、一度頭の中で出来たレッテル・偏見は、修正するのに時間も手間も精神力も必要だ。
偏見を修正しようと努力することによるメリットが、偏見を持っていることとによるデメリットを超えることは、正直あまり無いと思う。
それこそ、名前を変えた位では何も変わらないのだ。

件の記事が、本当にイスラム教徒達への迫害や差別を無くそうと考えるなら、ダーイッシュの存在意義としてのイスラム教ではなく、平和的に共存できているより多くのイスラム教徒達にとってのイスラム教がどんなものなのか、それとダーイッシュの語る神の意志の違いはどこにあるのか、どう違うのかを明確にすること、「共存が可能な解釈もあること、多くの信者はその中で生活をしていること」を伝えるべきだったと思う。

差別や迫害がダーイッシュを利する

一般のイスラム教徒への迫害や差別は、“イスラム教徒というだけで罪の無い人間が迫害される”という状況を作る。
言葉で説明しても聞く耳を持たないその迫害や差別から逃れるためにはどうしたらいいのか?
「彼らが自分たちを認めないなら、生きるためには戦うしかない。言葉が通じないなら力でわからせるしかない。」という結論に至ったとしてもおかしくはない。
だがこれはダーイッシュ達が日頃主張していることではないか?

ダーイッシュ達を攻撃するために他の無辜のイスラム教徒を迫害・差別することが、結局ダーイッシュ達の主張に裏付けを与え、ダーイッシュ達の賛同者を増やす(少なくとも敵を減らす)ことに繋がる可能性があるということだ。
自分たちの迫害・差別行為こそがダーイッシュ達に力を与えることを、迫害・差別に勤しむ人々に理解させることが必要なのだと思う。

(まあ、個人的な自己実現や快楽のために迫害・差別に走っている人間は理解しないだろうとは思う。理解したってメリットが無いし、むしろ、差別しやすい状況こそが彼らのエネルギーだから。
語弊を恐れず言えば、彼らもまたダーイッシュと一緒だってことだと思う。)

*1:NATONorth Atlantic Treaty Organization北大西洋条約機構

*2:OPEC:Organization of the Petroleum Exporting Countries:石油輸出国機構

*3:TAC:Terrible-monster Attacking Crew:超獣攻撃隊

*4:これにしたってもともとは「ダウラ・アルイスラミーヤ」の略称で、このダウラ(Dawlah)には「国」の意味があるから言ってることは「イスラム教徒の国」となる様だ。ちなみにこのDawlahを「ハーン」と読ませる場合もあるらしいのだけど、これはモンゴル帝国が中東を占領した際、国王が「汗:ハーン」と名乗ったことに由来しているのだろうと思う。イル=ハン国チャガタイ=ハン国イスラム教に改宗したし、その後に中央アジアで覇を唱えたイスラム系のティムール帝国の建国者ティムールは「チンギス=ハン」の子孫を名乗った位で、イスラム語圏でハン(ハーン)=王の意味合いはあったと思うので。

*5:『定吉七番』に出てくる汎関東主義秘密結社で“全関西人の食卓に納豆を!!”をスローガンに暗躍定吉七番 - Wikipedia